タイのあれこれ

と、フィリピンのあれこれも

車の購入 (2)

 

次の日、免許を持っている義理の妹が、建築資材を買いに行くのに車を使わせてほしいと言われたので、貸すことにしました。買いに行く前に、車に慣れるためにテストドライブをしたいということで、家の前の坂を下りて平らなところでUターンをして戻って来ようとしたら、その坂道の途中で止まってしまいました。私は家で仕事をしていたのですが、電話がかかってきたので現場まで行ってみると、確かに坂を上り始めたところで車が停まっていました。運転を代わってもらい、私も試してみましたが、エンジンはかかるものの、坂を上り始めるとまるでパワーがなく、ガス欠のような症状でぷすっとエンジンが止まってしまう状態でした。坂なので、ガソリンがうまくエンジンまで入って行かないのかと思い、ガソリンを買ってきて給油してもう一度試してみましたが、状況は同じでした。私はそこまでで仕事に戻り、妻と義妹が知り合いの車屋さんに頼んで牽引してもらい、家の前まで戻ってきて調べてもらいましたが、どうやら3気筒あるうちの真ん中のシリンダーが死んでいるとのことでした。それで、次の日に、車の電気系統に詳しい人に来てもらいましたが、プラグは問題なく火花が出ており、ケーブルにも問題がないとのことでした。そっか、やっぱりエンジンか、ということで、最初に頼んだ車屋さんに状況を話し、工具を持って来てもらって詳しく調べてもらうことにしました。すると、原因はオーバーヒートで、ガスケットの一部が焼けていると言われました。
オーバーヒート!?前日、高速道路や峠道を特に問題もなく走ってきたので、それは考えにくいなと思ったのですが、思えば高速道路ではあまりスピードが出ず、最低速度制限の60kmギリギリで走っていました。そして、時々、登り道でもないのにゆっくりとスピードが落ちてくるようなことも何度かありました。車の後ろが人が乗れるようにボックスタイプに改造されていて重量が重いせいでスピードが出なかったと思っていましたが、すでにその時にエンジンの限界が近づいていたのでしょうか。あるいは、途中で一度も休憩もせず6時間半走りっぱなしで、特に最後は山登りの道を約1時間走らされて、エンジンが逝ってしまったのでしょうか。でも、水温計は、平行かそれより少し上に上がったくらいだったと思うのですが、それでもオーバーヒートしてしまうことがあるんでしょうかねぇ。
と、ブツブツ文句を言っても始まりませんし、引っ越しまで2週間を切っていますので、とりあえず修理しなければいけません。日本では、車に詳しい友人がどこに行っても必ずいて、その人を頼りに修理してもらっていましたが、ここではそうはいきません。とりあえず、最初に頼んだ妻の知り合いの車屋さんにお願いしたところ、エンジン内に別の問題があることが分かりました。それは、クランクシャフトとシリンダーブロックの間に入っているワッシャーが、表裏反対に入っていて、クランクシャフトがすり減っているとのことでした。前にエンジンをばらした時に表裏を間違って入れたのだろうという見立てでした。

表裏が逆についていたワッシャー

ワッシャーが入っていた位置


そのためにすり減ったクランクシャフト

そんな初歩的なミスって、ありますかね?ていうか、表裏が分かるように部品に工夫ができないんでしょうか?と、ここで文句を言っても仕方がないですし、中古車の仲介販売をしている人にここまで責任を求めるのも酷というものです。
これを修理できるかどうかはマシンショップに聞いてみないといけないということになり、バラバラにしたエンジンを持って行って見てもらいました。診断の結果は、クランクシャフトの修理は不可で交換が必要、その影響でピストンにも不具合が出ていて交換が必要だと言われました。そして、驚いたのは、必要な部品は自分で捜して買ってきて、そのマシンショップに持って行かなければいけないということです。えっ?クランクシャフトとかエンジンのピストンとか、売ってるの?と思いましたが、マシンショップの人に何軒かパーツショップを教えてもらったので、そこを回ることになりました。車種はスズキキャリィで、バギオではあまり見かけないのでうまく手に入るかと心配だったのですが、一番大きなパーツショップでほとんどの部品がそろいました。
クランクシャフト

ピストン

ピストン周りの関係部品

ガスケット

タイミングベルト

ひとつだけ、部品屋さんを5,6軒回っても手に入らない部品があり、取り寄せてもらいました。それは
テンショナーベアリング

そうそう、部品を洗うための灯油代も別に2回請求されましたね。修理工場にあるのは最低限の工具とメカニックだけで、必要な部品や消耗品はその都度お客さんが準備するというシステムでした。途上国では、在庫は最低限あるいは一切持たない、Just in Timeが徹底されていて驚きました。ある意味トヨタより先んじて先進的な経営方針が普及しているようです。
すべての部品がそろったのが、次の週の月曜日でした。引っ越しのためのフェリーはすでに予約済で、その週の土曜日深夜に出航します。その後の予定を考えると、何とかこの船に乗りたいので、修理の遅れは是が非でも避けたい状況でした。エンジンが組み上がるまで2,3日かかると言われたので、翌日火曜日にハンバーガーと飲み物の差し入れを持っていて、しっかり水曜日には仕事を終わらせてもらいました(笑) そして、組み上がったエンジンを載せて調整するために、2日かかり、車を受け取ったのは金曜日でした。調整に少し時間が掛かっている間に、フェリー会社から予約の確認の電話がかかってきました。すでに一部を前払いしていたので、予約自体には問題がないのですが、予約時に車を修理中だということを話していたので、わざわざ確認をしてくれたようです。ただ、話を聞いていると、その船に乗りたい車が別にあり、その人がすぐ電話口にいる雰囲気でした。遠方の客に直前にキャンセルされるよりはその車を乗せたいというフェリー会社の意向が伝わってきましたので、思い切って予約分は譲ることにしました。車が戻ってきてから慣らし運転の時間がないなと思っていたので、フェリー会社の人と話して、前金はそのままで、一週間後の次の便に変更してもらいました。結果的にはこれがいい判断で、車を受け取った日、家まで帰る間にブレーキペダルが固くなって踏めなくなり掛かりっぱなしの状態になってしまい、動けなくなってしまいました(ちょうど交差点を渡りきったところで止まって良かった!)。エンジンをばらしてなぜブレーキの不具合が出るのかよくわからないのですが、空気が入ってしまったのでしょうか、車屋さんに来てもらってその場で調整してもらいました。ハンドルを目いっぱい切って、前輪の後ろ側のところのどこかのねじを回してブレーキを何度も強く踏んで、ブレーキが動くようにして、ブレーキフルードを足してという作業でした。幸い、同じ症状はその後起きていませんが、この時は、「エンジンの次はブレーキ!?」と、正直言ってかなりショックでした(笑)。その後も、エンジンを切ってもポジションランプが付きっぱなしになるとか、バックする時のランプが付かないとか、突然ウインカーが機能しなくなるとか、電気系統に謎の不具合があることが判明しましたが、バギオで修正できたのは、エンジンを切った時にポジションランプが付きっぱなしになる不具合だけでした。あとは、このモデルの車がよく走っているであろう現地の車屋さんで修理することにしました。
この車を買って正解だったのか?という質問が脳裏に浮かんでは消え、消えては浮かぶ状態は、実は今も続いているのですが(笑)、もう引き返せない道、ルビコン川はとっくの昔に渡っています。不具合を持ったまま、当面の問題を回避しながら何とかやり過ごしていくという、フィリピンではごく通常の生き方を受け入れて、それでも命だけは守って生活していくというライフスタイルに順応するしかなさそうですね。途上国でのカーライフ、なかなか奥が深いです。

※新車を買って都会で暮らせばこういうことはないと思われますので、念のため、申し添えます。